第176章

稲垣七海はお父さんだと気づいた。

彼女は不満げだった。お父さんが長い間側にいなかったせいで、本来なら喜んで飛びついていくはずなのに、今はただお母さんの足にしがみついていた。

稲垣栄作は彼女の小さな腕をつかみ、そっと自分の側に引き寄せた。

結局我慢できず、彼は娘をぎゅっと抱きしめた。彼女から漂うミルクの香りを嗅ぎながら、胸が痛くなった……

別れた当時、娘はまだ生後数ヶ月だったのだ。

稲垣七海はお父さんに抱かれて、少し恥ずかしそうにしていた。

しかし子供は敏感なもの。

お父さんが泣いているみたい……

稲垣七海は稲垣栄作の整った顔を小さな手で包み、黒くて大きな瞳をぱちぱちさせながら...

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